2024.07.2
留置所生活を経た吉岡賢人が語る
バンド活動とヘイターへのアンサー
『Japanese Super Rat出所後インタビュー』
2023年11月26日にスケート界の異端児こと吉岡賢人が大麻取締法違反の疑いで逮捕された。 このニュースは日本のスケートシーンのみならず世間を騒がせていた。 そんな彼は出所してからというもの、自身のブランド〈knthw〉の新しいビデオの試写会やバンド〈Japanese super rats〉1st アルバムリリースと、自身の活動により一層磨きがかかっている。 一体、留置所で何を想い現在どんなマインドで活動を続けているのだろうか。
“ギャグみたいな世間でやる俺のギャグでみんなを笑い飛ばしたい”
ーだいぶ時間が空いちゃったけど、お帰りなさい!
賢人:まさか上京してから10年目で捕まるとは思わなかったです(笑)。
ー釈放されてからも以前と変わらずフルプッシュで活動しているね。
賢人:間違い無いです。
ースケボーもバンド活動もブランドも順調に動いてるけど、そもそも留置所生活はどうだった?
賢人:そうですね。とりあえず暇すぎてキツかった。陽の光を浴びれないし、飯の味もしないし、肌も荒れまくって。
ーどんな心境だったの?
賢人:人生で初めて死のうと思いましたよ。無意識にスウェットで首吊るわっかを作ってたり。今思い返すとやばかった。逮捕されて入った牢屋は監視官の目の前でシコれなくて夢精もして。こんな地獄ねえと思ってました。
ー留置所にいる間に考え方の変化はあった?
賢人:今まで以上に反骨精神が増したと思います。いろんな国にスケートツアーで行くことが多いからこそ、日本の制度とか不満に思うこともたくさんあるんです。そんな世の中だからこそ、俺が世の中に訴えられることってなんだろうって考えてましたね。
ーちなみに、留置所にいた時の思い出に残ってるエピソードってある?
賢人:留置所から出る時に、母ちゃんがわざわざ地元の愛媛から来てくれて。一緒に焼肉食いに行って、その流れで銭湯も行ったんですよ。
ー最高だね。
賢人:その時に行った銭湯は昔ながらのスタイルだったんですよ。男湯と女湯を仕切ってる壁の上が繋がっていて会話が丸聞こえみたいな。そこで更衣室から風呂場へ行く扉を開けたらまさかの不良の先輩がいて。『おー!賢人おかえりー!お前反省してるの!?反省しなくていいっしょー!』って大声で励ましてくれるもんだから、その声全部母ちゃんに聞こえてるんですよ(笑)。
ーすごい偶然だね。
賢人:『お前そういうの上手くやれよ』って話が始まるんですけど、全部母ちゃんに聞こえてるんだけどなって思いながら聞いてて。それで風呂から出たら、母ちゃんがニヤニヤしながら待ってるんですよ。『やっぱ都会と田舎は全然感覚が違うのね』ってちょっと理解しちゃってて(笑)。
ー聞かれてたんだ(笑)。自粛期間が明けてからはすごいアグレッシブだったよね。
賢人:〈knthw〉のビデオ『K.N.T.H.W』も公開直前に捕まっちゃってたんで、出てからは早速東京と大阪で試写会を開催しました。自分のバンド〈Japanese super rats〉のアルバムリリースに向けてライブもガンガンやって。
ー留置所にいる間は今後の活動をどうしていくか考えたりしていたの?
賢人:留置所ではたくさん自分自身と向き合えたと思いますし、そこでバンド活動のスイッチも入ったんですよ。考えることもいっぱいあって、そこでアルバムに収録してる楽曲の歌詞もたくさん思いついたし、一気に詰め込んで形になっていきました。
ー直近では「哀」のMVも公開されたね。
賢人:元々MVを出すつもりはなかったんですけど、映像監督のAnthony Yano HaysがMVを撮りたいって名乗り出てくれて。MVは釈放直後に撮り行って、ギリギリの精神状態で臨みました(笑)。
ー元カノとの別れ話でもありつつ、スケボーが彼女っていうような内容の曲だったよね?
賢人:スケーターが彼女に振られる理由ってスケボーをしすぎてたり、スケボーが彼女みたいな部分があるから振られるじゃないですか。ていうところで、スケートとのラブストーリーを撮りたくて作ったのがあのMVなんですよね。
ーこのMV面白いね!
賢人:今ってHIPHOPがメインストリームじゃないですか。スケーターもHIPHOPばっかり聞いてるし、そこに対する反骨もちょっとありますね。ラッパーって、自分のことを誇示することが多いイメージがあったので、だったら真逆を行ってやろうって思ったんですよ。最近、丸裸の心で少しダサいぐらいの正直な男って最近あんまり見ないから。
ーダサいって要素を大切にしてるの?
賢人:俺のスケートビデオとかMVを観てくれてる人は、よく分からなくなると思うんですよ。カッコいいようなダサいような。そんな馬鹿正直やつが1人はいてもいいんじゃないかなって。
ーむしろそれがカッコ良く見えたりすることもあるからね。
賢人:スケーターは基本バイブスが高くて、人前ですぐにちんこを出せるやつがカッコいいみたいな謎のエンタメ精神が昔からあるんですよ。そういうスケーターのマインドを、俺なりに音楽に昇華してるのがJapanese super ratsですね。
ーちなみに、Japanese super ratsの楽曲に対する周りの評判ってどうなの?
賢人:やっぱり賛否両論ありますね。
ー否定もあるんだ。
賢人:はい。やっぱ俺らのバンドは攻めたことをやっているから、50%が大嫌いで50%が大好きって現状だと思います。
ーライブハウスの人やアーティストさんからは何て言われてるの?
賢人:仲間内からは、やるたびに声が良くなったとか、バンドとして形になってきたって言ってもらえています。逆に同世代のハードコアやパンクバンドをやってる人からは、『あいつは音楽を舐めてる』って言われたりもします。でもそれは、本物の人たちが気にしてるってことじゃないですか?すごい嬉しくなっちゃって。
ーアツいね。
賢人:とりあえず、良し悪しは人それぞれあるにしても、今こういうバンドはあまりいないんじゃないかって思ってやり甲斐を感じています。
ースタジオに入ってシャウトの練習はしてるの?
賢人:正直、ぶっつけ本番が多いです。多分スタジオに入って練習した方がいいんでしょうけど、俺に技術を求められてるのかって思ってきて。そもそも俺はスケーターだし、バンドはカルチャーの一つと捉えているんですよ。昔だったらTHRASHER MAGAZINE元編集長のJake PhelpsもBad Shitってバンドをやっていて、ライブ中にお客さんとケンカして、ひでえぞって缶を投げられたりしながらライブしてる姿に影響を受けているので。
ーこのバンドは、テクニカルなサウンドの上に直球で分かりやすい単語を並べてシャウトしてて、いいバランスで成り立っている印象。
賢人:ギターのMicciさんやバンドメンバーが作ってくれたカッコいいトラックの上で、誰にでも分かる言葉をのせて遊んでるイメージです。俺は上手い下手じゃなくて魂で叫びたいし、ダサくてもいいと思っています。
ー何を魂で叫びたいの?
賢人:今ってスケーターが路上でプッシュしたり、ちょっとトリックしてる動画に対してすごい量のヘイターがコメントしてくるじゃないですか。ああいうのがムカつくんですよね(笑)。なので、僕が10代の頃から路上でスケボーしてて思う事や、スケーター側の意見を叫びたいし、そうしてるつもり。別にリアルなスケーター達は、一般の方に理解してほしいとも思ってないんですよ。ただ俺はそんな日本が全部ギャグのように感じるので。
ーギャグ?
賢人:スケボーごときでニュースにしたり、大袈裟に取り締まる警察やヘイターがいる日本ってめちゃめちゃギャグだと思ったんです!俺はそんなギャグには、ギャグで返してやろうとふと思ったワケなんですよ。
ーその結果見出した答えのひとつがバンド活動ってことなんだね。それはスケボーしている時のマインドと共通しているよね?
賢人:そうですね。スケボーは言葉がないじゃないですか。だから言葉で表せることにトライしてみたくて。ギャグみたいな世間でやる俺のギャグで笑い飛ばしたい。言えるところまで言い切りたいし、本当に笑って欲しい。だから歌詞もみんなが分かりやすい言葉を選ぶし。
ーなるほどね。
賢人:無茶苦茶カッコつけてめちゃふざけたいんすよ!頭悪いな~って笑い飛ばしてほしい(笑)。
ーそういうマインドは昔からあったと思うんだけど、出所してからそれが増していったのかな?
賢人:はい。釈放されてからその想いは強くなりましたね。これまでは、カッコよさを突き詰めてやってたんですけど、考えがほぐれてきました。頑固になりたくないというか、自分はこうだって決めちゃった時点でそれにしかなれないというか、面白くないんですよね。それよりも何も決めずにその場その場の瞬間で生まれたものの方が、純度が高いし面白い。
“何が正しくて何が正しくないかくらい自分決めろ!”
ー発想の転換で面白さにフォーカスするようになったけど、それで今ヘイターに対してのアンサーはあるかな?
賢人:スケボーするなって言われても、俺はこれで飯食わせてもらってるから。世界にはストリートで滑ることでお金を稼いでいる人がいるんですよ。その文化が日本に入ってきてるってだけの話。そういう職業があって俺はそれで税金も納めてます。
ーお仕事でもあるからね。
賢人:そう。ホントに面白いですよ。そんなこと言われても俺はお仕事だしなって。
ーコンテストに出るだけがスケートボードでは無いからね。
賢人:じゃなきゃ、堀米悠斗くんだってオリンピックで金メダル取った立場で、わざわざ東京のストリートで撮影したフルパート出さないでしょ?それでもヘイトしてくる人がいるから、黙っててもいいんすけど、みんな黙ってるなら1人くらいそこに対してアンサー出来る人がいたっていい。
ーそこまで言及してる人っていないかもしれない。
賢人:そうなんですよ。俺らは技の名前もわからない人に下手くそって言われるワケですよ。それで傷ついてるスケーターもいるし、俺の仲間がディスられてることに対して、黙っていられない。
ーヘイターが沢山いたりネガティブな面もあるけど、やっぱりスケーターって面白いし、実際に会って話すのと映像で見るのとでは違うよね。
賢人:そうですね。勘違いして欲しくないんですけど、スケーターはみんなピースなマインドを持ってるし、愛で溢れてる人が沢山いるんですよ。俺がここまで来れたのも、周りにグッドバイブスな先輩や仲間が沢山いて、そんな人たちが支えてくれてたからこそなんで。だから俺はこれからもスケボーの魅力を伝えていきたい。
ー賢人くんは10代の頃から面白い動きを続けて、バンドもやったり独自の表現方法をさらに見出して成熟してきてるのが面白いよね。
賢人:スケーターの文化が日本に根付いていないからこそ、それを知ってもらうのが俺の役割なのかなって思ってて。音楽は大衆のものでいろんな人が観るからこそ、表現の場を広げてリアルなスケーターってこれだよっていうのを伝えてみたかったってのがありますよね。
ーしかも捕まってから、反骨心剥き出しで活動に磨きがかかってるっていうのがいいよね。
賢人:正直世の中のこと舐めてたし、10歳でスケボー始めた時と変わらない気持ちで24歳までずっと突っ走ってきていたと思います。それが初めて捕まって、20日間強制シラフで。彼女にも振られ、金がなくて家の家賃も払えてなくて。色々溜まり溜まったカルマが一気に来て。でもそれがあったからめちゃめちゃ強くなったし、いろんなことを受け入れられるようにもなれたんじゃないかなって思うんです。死ぬこと以外大したことじゃねーなって思えるようになったと思います。
ーなるほどね。
賢人:しかもこのインタビューをスケーターが受けるっていうことが、今後のスケートシーンに対してめちゃアツいと思うんです。捕まったら人生終了って常識が日本にはあるけど、釈放されてからもスポンサーさんが変わらず手厚いサポートをしてくれて活動を続けていられる。こういう前例が一つあったら、これからのスケーターが何をしても生き残っていけるじゃん。そうやって自由の範囲をを広げていきたいから、俺はこのインタビューやろうって決めた!だってこれ俺がやらなかったら、誰もやらないっすよ。
ー日本のスケーターに対して、今だからこそ伝えたいことってある?
賢人:ストリートスケーターとして堂々といることだけっす。俺は絶対真面目になんかならねえって思ってるから。だけど、スケートボードに対しては真っ直ぐ向き合ってる。まあみんなに伝えたいのは、何が正しくて何が正しくないかくらい自分決めろってことですよ。
ー自分にとって何が正しいかは自分で決めないとね。
賢人:不寛容な大人にはなりたくないですね!まだ公表できない面白い企画もやってくし、文句言わせねえぞって感じすね。
- Photograph_Leo Ichikawa
- Text & Edit_Yuki Toya
Profile
愛媛県出身、東京都在住。15歳で上京後、東京のストリートを拠点に滑走するスケーター。撮影・編集・配信をすべてiPhoneで行う『apple』や『PokettPatroll』の活動で多くの注目を集め、EvisenSkateboardsに加入。オリジナルブランド『knthw』の立ち上げやバンド活動に、THRASHERにて公開されたLENZ3のビデオパートも国内外のスケーターから大きな話題を呼び、24歳でストリ ートを縦横無尽に動き回る若き表現者。 Instagram: @japanese_super_rat @japanesesuperrats
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