FASHIONINTERVIEWMUSIC2021.03.31
JANSPORTとNYカルチャー
– 大橋 高歩 –
ブランドや服のウンチクをどれだけ知っているかじゃなく、“誰が何をどう着こなすか”ということがストリートでは大切で、知識に勝るのはそんな自分にしかない感覚。だけど、服にはそれぞれ辿ってきたルーツみたいなものがあって、そんなストーリーを知ればさらにファッションが楽しくなるに違いない。ここではthe Apartmentの大橋さんに〈JANSPORT〉と紐づくNYカルチャーについて話を聞いてみた。みんながPVなどで目にして参考にしているであろう、海外ラッパーの着こなしの背景にあるものを知ることで、点と点が線になるような機会になるはずだ。
ある釣具屋で初めてGETした
ツートンカラーのJANSPORT
– 今回はJANSPORTとNYカルチャーというテーマで話を伺いたいのですが、そもそも大橋さんはいつ頃からJANSPORTを使い始めていましたか?何を使っていたかは覚えていますか?
一番最初に買ったのは高校生の時で、モデル名はわからないんですけど“山ロゴ”みたいなモノで、バーガンディとネイビーのツートンの、少し凝ったものを買ったのを覚えてます。
– それは古着屋で買ったんですか?
駒沢公園の近くに釣具屋さんがあって、そこに売ってましたね。インポートものだと思います。高校一年生の時だったんですけど、釣具屋さんに置いてる服は好きなものが多くて、山ロゴは見たことが無かったので、これはかっこいいなということで。
– そういったアウトドアの洋服を買い始めたのは、何がきっかけだったんでしょうか。
ラッパーが着てるジャケットを見ても、その洋服がどこに売ってるか当時は分からなくて。まだその頃ってストリートファッションをターゲットにしたブランドが無かったのもあって、ストリートカルチャーとリンクした服を着ようとすると、どうしてもそういうアウトドアだったり、アメリカのブランドを着ることが多かったですね。
90年代のHIPHOPにおける
インディペンデントの象徴のひとつ
– ここでカルチャーにおけるJANSPORTの話をお聞きしたいのですが、ラッパーがバッグをステージで背負っている姿を見ると、HIPHOPともリンクする部分があるのかなと思うのですが。
90年代になってHIPHOPが商業的に売れていく中で、高価なレザージャケットにブリングをぶら下げる、というお金のかかったスタイルに移行していく人と、そうではない商業的じゃないHIPHOPというか、オーセンティックなHIPHOPのメンタリティみたいな部分を大切にする人とで2極化していく現象があって。自分は今では両方とも好きなんですけど、当時は商業的になっていくHIPHOPにうまく乗れなかった気持ちもあったので、どっちかっていうと歌詞の内容もコンシャスだったり、サンプリングに走った方向のものを追いかけていて、それがいわゆるバックパックラップという呼ばれ方をするようになって。JANSPORTも含むバックパックを背負うラッパーっていうのが、反商業主義とは言わないですけど、インディペンデントなラップの象徴だったかな。
– 具体的にいうとどんなアーティストになるんでしょうか。
今考えると、レーベルとしてはRawkusだと思います。バックパックラップと聞いて思い出すアーティストは、PHAROAHE MONCHですね。あと、実際にバックパックラップ当てはまるかは分からないのですが、自分たちで言ってるのだとBoot Camp Clikのメンツとか、Buckshotとかですかね。
プロップスを示せるモノであり
ゲトーから抜け出す道具として
– JANSPORTってNYカルチャーの中で、どういう立ち位置なんですか?
80年代後半、多分88年くらいのブルックリンにいた若いギャングの子たちが作ったカルチャーがいっぱいあって、一番有名なのがLO LIFEだったりとか様々なものがある中で、JANSPORTのカルチャーがあったらしくて。それはJANSPORTについてた紐がすごい価値があって、スクールカーストの上のほうにいる子たちが、下にいる子たちの紐をとって持ち手のとこにいっぱい付けていくみたいな、いわゆるボンタン狩り的なヤンキーカルチャー。なので、JANSPORTのいいストリングスをつけてるとバスとかから引きづり下ろされて、というのがあったらしいんです。SKY ZOOのJANSPORT STRINGSは、そういうところからきてる歌だと思います。
– そうだったんですね。
LO LIFEの人たちは今ローダウンと言って、頭からつま先まで全部ポロで揃えるスタイルが確立されていて。なのでバックパックもRalph Laurenを持っていたりするんですけど、発足の最初の頃とかは、POLOのアイテムにGUESSのデニムを履いて、バックはJANSPORTを持っていて、その辺りがセットでスタイルとして広がっててというスタイルで。LO LIFEの人たちはラックカルチャーって言って、万引きをする文化なんですよね。少年ギャングみたいなものですかね。そのときに使う道具としてバックパックが必要だったみたいです。いろんなラックスキルがあって、そのラックスキルをバックを使って披露するっていうのを聞いたことがあります。LO LIFEの人たちはすごい貧困層出身の人たちなんで、学もないし学校に通うお金もなくて、ゲトーなところから抜け出す方法がないんですよ。そんな中、白人の富裕層が着る高い洋服という認識だったRalph Laurenを、全身に着てブルックリンを歩くことで、自分たちは金を持ってると見せるんですよ。ただ、実際にお金を持っているわけではないので、それは実は盗品だったと言うことなのですが。
みんなが手に取る理由がある
ベーシックさに最大の魅力が
– ここで大橋さんのバックの使い方をお聞きしたいのですが、バックはどれくらい持っていますか?
大体10個くらいですかね。昔は洋服に合わせて使い分けてたんですけど、最近はめんどくさくなっちゃって、同じものを使うことが多いです。
– 大橋さんにとって、JANSPORTの最大の魅力を教えてください。
JANSPORTの魅力は、定番ってことですかね。例えば、ベースボールキャップを買うときに、New Era®を買うじゃないですか。それ以外のものだと”じゃないもの”を買ってる意識になると思うんです。デニムで言えば、Levis®じゃなくてLeeを選ぶってことは、そこに何かの理由があるじゃないですか。自分の中ではそう言ったひねりは全然必要じゃなくて。アイテムを聞いて、一番最初に頭に思い浮かぶブランドには、結局みんなが選ぶ理由があると思うんです。だからまずは定番ってことですかね。あとは値段で、僕の場合は高校一年生の時にバックパックを背負ったんですけど、それから大人になるにつれて、今PRADAを使うかと言われるとそうでもなくて。大人になったらなったでJANSPORTを背負ってるカッコ良さってあると思うんですけど、それが決して高いものじゃなくて、それこそ高校生とか中学生とかが買えるものが大人も一緒に使えて、世代とかジェンダーとかを超えてみんなが使えるっていうのが魅力ですね。
- Photograph_Ryo Sato
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