
FEATUREMOVIE2020.11.14
外に行きたくなる映画
NO.06 堀田英仁
Awichの『洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS』やkZmの『27CLUB feat. LEX』のMVなどを手掛けているフィルマーの堀田英仁さん。作品の魅力はなんといっても映画のような世界観。それはモノクロの時代劇風から疾走感のあるSF、CGのデジタルを駆使したものなど幅広く、数分の映像とは思えないそのクオリティやメッセージ性には圧倒されるものばかり。現に数多くの映画作品を鑑賞し、普段のアウトプットに映画は欠かせないという堀田さんの、北海道や沖縄にギリシャまで、まるでツアーガイドのようなラインナップに注目だ。
〈作品1〉
『ソナチネ』
〈コメント〉
「北野武の監督四本目で、バイク事故を起こす前に撮られた作品です。北野武映画はかなり影響を受けていますが、中でも好きな作品は初期の『その男、凶暴につき』、『あの夏、いちばん静かな海。』、『キッズ・リターン』、そしてこの『ソナチネ』です。この映画は一言で言えば、大人たちの青春というか。もっとわかりやすくいうと「ヤクザの夏休み」。北野武は独特なリズムのカット割りや間合い、映像における静と動のバランスがとても勉強になります。この映画は、自分の意思でなく、周りの都合で沖縄にいくことになった大人たちがその中でふとした楽しみを見つけたりする描写に共感します。そのあとやってくる銃撃戦、それを皆なんとなくわかっているかのような、少し切ない無邪気さ。映画にとって「旅」と「刹那」という組み合わせが一番人の心を掴み、風景が情景に変わる大事な瞬間な気がします。中でも砂浜での人間トントン相撲のシーンは、後にも先にもあんなに砂浜でのクレーンワークが印象的なショットをみたことがありません。映画史に残る名シーンです。それ以外にも花火で戦争ごっこみたいなことをしたり、釣り師の服を纏った殺し屋が突然現れたり…。映画の中で海に行くことは、何かしら物語が動くからいくわけなんですが、それは僕たちのリアルな人生でも同じことが言える気がします。」
〈作品2〉
『幸福の黄色いハンカチ』
〈コメント〉
「『ソナチネ』が沖縄だったので、今度は北海道を旅する映画、『幸福の黄色いハンカチ』というロードムービーを紹介します。内容は結構シンプルで武田鉄矢、桃井かおり、そして常に何か過去を背負っている男、高倉健のチグハグ珍道中映画です。時代の違う映画を観ることは、会話から描かれるふとした価値観が現代と比べてどう変化したか知ることができると同時に、逆に共感できるシーンに出会うと、時代を超えて通じる普遍的なテーマや人間の真理を再認識することができます。それが映画を観る醍醐味です。ナラティブな映画において好きになるシーンは、“リアル”な情報量が詰まっているショットです。3人の迫真の演技のヌケには、70年代の北海道の様々な街や自然の顔が切り取られて、それが映像の厚みになって広がりをもたらします。有名なシーンはラストの高倉健が、元妻に会いに自宅を訪れた際に彼女が約束の黄色いハンカチを大量にのぼりに掲げていて再会するところですが、三人がMAZDAの真っ赤なファミリアに乗って、北海道の大自然を走るシーンを観るだけでも、十分に車旅をしたくなるはず。僕自身は免許持ってないんですが…。」
〈作品3〉
『永遠と一日』
〈コメント〉
「テオ・アンゲロプロス監督の作品は、全てのショットがワンシーンワンショットの長回しです。カットが割れないために映画の時間の流れと観る側の時間の流れが同じで、それがどんどん違和感となってとってもファンタジーに見える瞬間があります。本作品で描かれれるギリシャの港町、国境、道路、様々なロケーションが、まるで観る側も一緒にあの風景を体験しているように感じさせてくれます。主人公の詩人アレクサンドラは、重病を患いそのせいで現実と夢のシーンが交互に出てきます。ラストで、売却されてしまった海辺の家に戻り、そこからカットを割らずに海辺へいき、妻アンナが「明日の長さは?」という問いに「永遠と一日」と答えるところは本当に美しいシーンです。」
- Photo _ Ryo Sato
堀田英仁
ラッパーやアーティストのMV、Red Bull Musicの人気企画『RASEN』のディレクション、更にはi-DやVICEなどのドキュメンタリー作品までも手がける映像監督。最近ではBAD HOPの2時間にわたる超大作映像『”BAD HOP WORLD” Release Online Live』は必見。

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