OTHER2020.05.20
無限のアイデアと実現するパワーで
時代をつくるアーティストたち
VOL.01
TENGAone
Ollie 2019年4月号 Vol.240より
“偽物=フェイク”を追求し
物事の本質を見る者に問う
写真を見て「段ボールにキャラクターが描かれた作品」と思ったアナタ。インスタ映えしそうな作品に込めたTENGAoneからのメッセージは、実は木に段ボールを彫刻し、その上に“アリモノ”のキャラを乗せ、ある意味偽物=フェイクで作り上げるという、常識を打ち崩すもの。POPな作品の背景に込めた世の中への怒りが、見る者を自問自答させる。
グラフティをルーツに
その先を考えた上での選択
取材で訪れたアトリエは、都心から車で1時間ほどの郊外にあり、鉄工所の跡地で100平米を超えるスペースが広がる。ただ、過去の作品や蔵書の数々、リスペクトするアーティストや仲間の作品など、アトリエというキーワードから想像するものは一切見当たらない。
「ちょっと前に(前のアトリエから)移ってきたばっかりで、まだ何もないんですよ。ただ作品を作る場所って感じですね」。“画が天職”を意味する天画=TENGAoneを名乗るように、ストイックにアートと向き合う姿勢は、殺風景なアトリエや本人の無頓着にも見えるファッションからも窺える。
そんなTENGAoneのアーティストとしてのルーツは、街をフィールドにするグラフィティ。今でこそストリートが市民権を得て、メゾンやメディアも注目するようになったが、TENGAoneがグラフィティを始めた頃はまったく状況が違った。
「自分が始めた頃から10年とか15年の間は、だれも見向きもしないし“スプレーでシュッシュッやってるやつでしょ?”くらいの認識のされ方で。グラフィティが根本にある自分が、会社員じゃなくて作家として生きていくためには(グラフィティを)どうすればいいのかと、どうにかして世の中に認められるものにしたいって言うのがあって、形を変えていったのがありますね」。
試行錯誤を繰り返す日々の中、フィギュアのような作品を作っていた時期に、その作品を置く台を「貧乏っちくていいな」という理由で、段ボールの箱にしたことがあった。
「段ボールなんてどこにでもあって、知らない人なんていないじゃないですか?だからこの段ボール自体も作ったら、見た人が楽しんで喜んでもらえると思ったんです。そのワクワク感は頭にずーっとあったんですけど、グラフィティってスタイルを通して作品を作らないといけないと思って、ストリート感がなきゃだめだとか、スプレー缶がないといけないんじゃないかとか、表面的なヴィジュアルなことを考えすぎていて、段ボールの造形物に踏み込めなかったんです。今までやってきたことと結びつかないんじゃないかとか、アーティストとしてウソになってしまうんじゃないかとか、まわりも気にしすぎて。でも現代アートとかが好きになって、そういう人たちと展示をしていた時に、アカデミックな人たちが急にストリートに寄ってきた感じがあって、“じゃあ俺もアカデミックなことをやっていいのかも”って思ったんです。あとは恨みですね(笑)。“グラフィティライターでもないのに、ストリート感出しやがって”みたいな」。
そう話すように、長い間かけて生み出された、木に段ボールと昔のアニメなどのキャラクターを描いた、“偽物”や“偽り”を意味するファブリケーションシリーズ。「キャラクターはカートゥーン系が好きで、特に名前も知られていないようなマニアックで、世の中から消えつつあるようなものを選んでいます。かつて活躍したキャラが、見捨てられたじゃないけど、時間が経つにつれて忘れ去られていくようなやつを」。
TENGAoneの作品は、カラフルだったりキャラクターが描かれたり、身近な段ボールが題材になっていたりと、大多数の人がPOPな印象を受けるはず。でも、作品の創作意欲のひとつには、POPなヴィジュアルとは相反する、怒りの感情が大きくある。
「いつも怒ってるっていうか、わざと怒ってるっていうのもあるんですけど(笑)、怒る要素を(制作のためにも)探してるんですよね。怒りだったり世の中への疑問が、制作のテーマやコンセプトになっているんです。人って生きていればなにかと不自由さを感じるけど、それが普通だと思うんですよ。その不自由さを表現するのに、“怒り”っていう素材を使っているだけで、表現はPOPで見た人が喜ぶものにしたい。人ってシンプルに、明るいものが好きじゃないですか?グロい死体の写真よりも、花の写真とかのほうが好きみたいな。制作された表面の部分と、自分の考えの部分は真逆であるのが前提なので、表面的には楽しそうでかわいく、本来の意味は怒りであったりネガティブな要素で、それをあえて感じさせないようにしています」。
見た目と真逆の想いを
作品に込めるコンセプト
作品を見た人を、いい意味で裏切るようなメッセージには、社会で生きていく上で忘れがちな、人としての本質が。それは“○○○は高値だからすごい”や“○○○は有名だからオシャレ”みたいな、アートに限らず世の中の上っ面な考えや、私利私欲の塊のようなヤツらへのアンチテーゼにも感じる。
「人間の根本というか、ひとりひとりの人間の本音と建前みたいなものを、いつも表現しているつもりで。道徳心とかそっちの方に近いと思います。でも、小学校の時の道徳の授業とか、マジでいらないと思っていて。“困ってるお年寄りがいたら助けてあげましょう”とか、それって教えてもらうことじゃなくて、感じて自発的にやることでしょ、みたいな。例えば、お金があれば幸せとします。でも、小学校の時はお金の大切さみたいなものは置いといて、“良いヤツであれ”っていうことを教えるんですよ、俺はそれが間違ってると思っていて。まぁ間違ってはないんだけど、良いヤツってそんなに……、この話変かなー……(苦笑)。良い人って、そんな幸せになれないと思うんですよ。もちろん良い人でいるっていうことは、常に持ってなきゃいけないことなんですけど、本当に良い人が裕福だったり幸せであるかは、この世の中では疑問に思ったほうがよくて。お金は嫌いじゃないけど、よくわかってないです。作品を作るためには生活しないといけないし、そのためにお金が必要なだけで。あんな紙の束でどうかなっちゃうとか、地球上で人間だけですから」。
ストリートでアートは、オシャレなものとして紹介されがちで、今だったらインスタ映え的な感じでスマホを向けることも多い。でも、見た目の印象だけではなく、その背景にある作り手の想いをどう感じるか、見る側の姿勢も問われている。TENGAoneのアートからは、そんなメッセージやシンプルに“アートが好き”という想いを受け取れるはずだ。
「絵も好きだし、昔から造形も好きで、今やっていることが好きなことなんですよね。(造形は)どんどん形になっていくのが目に見えてわかるし、作業的には穴空けたり削ったり、同じルーティンをやってると“最悪だなー”と思うけど(苦笑)、上手くいった時のやり遂げた爽快さは、絵よりもあるかなー。いま彼女と犬と暮らしているんで、ひもじくない普通の生活が送れればいいのと、“グラフィティを通って、こういうアートを作ってる人が生活できてるよ”って、誰かの後押しになれたらいいですね」。
- ©2018 TENGAone/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
- photo _ Yoko Tagawa
- design _ Takafumi Iwatsuka
TENGAone
1977年生まれ。現在はカイカイキキギャラリーに所属し、自宅 とアトリエの往復をしながら、消費されるモノへの疑問や固定 概念をぶっ壊すような制作に没頭中。
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